仕事の経済学

最終更新: 9月3日





















≪著者≫

小池 和男

≪問い≫

日本はどのような人事・労働経済なのか

≪概要≫

一般理論として2点強調したい。知的熟練と長期の競争である。そしてこのふたつに日本の労働経済のめざましい持ち味がある。知的熟練とは職場の高い技能であるが、いわるゆ匠の技とは違い、手練れの技というよりも知的推理を強調する。職場ではマニュアルに書かれたことをただ忠実に行えばよい、というものではない。おもわぬ異常や変化が生じる。それをこなす技能の持ち主はどの国でも必要だが、その持ち主の数が日本にすこし多い。そのゆえに高賃金にもかかわらず、なおかつよい競争力をあみだしている。その点を見逃すと、日本は人脈や集団主義、会社主義でもってきたが、これからそうはいかなくなる、根本的な変革こそ、という誤解にみちた議論となる。

1. 知的熟練

あまり調べず日本の技能を浅い、と想定し、日本経済の成長は長時間働いたからだ、とする解釈があった。また集団を重く見る考え方が日本では強く、それが経済を支えてきた、とも言われる。しかしこれら技能の面を見ていない解釈は果たして実際を説明できるのであろうか。

事例研究によれば右上がり労働者グループの技能の核心は知的熟練である。それは問題と変化、不確実をこなす腕である。くりかえし作業ばかりでなんの技能もいらないかに見える現場でも、よく観察するとあきらかに二つの作業が見られる。「ふだんの作業」と「ふだんと違った作業」である。一見なんの変哲もない作業が続くように見えるが、実際は問題や変化が頻繁に起きている。例えば品質不良や欠品、設備不具合等である。これらエラーを一目で見極め対応するには技能が必要で、この技能を持った人がいるのといないのとでは時間に圧倒的な差が出る。そして現場では、この技能を持った人が意外と多く必要になるのだ。

「ふだんと違った作業」マニュアルを作れば良い、という意見もあるが、おそらくは十分に予見できないほどたえずあらたな問題は生じる。そしてこれらが規格化やコンピューター化の限界の要因となる。例えば日本はラインの労働者が問題処理に手を出すのに対し、アメリカはラインの労働者が問題処理に手を出すと保全担当者が嫌う傾向である。

2. ブルーカラーとホワイトカラーの技能形成

ブルーカラーとホワイトカラー(特に大企業)は、問題や変化、不確実をこなす技能が必須という点ではさほど変わらない。しかしその最大の違いは、この技能の比重である。ブルーカラーの多くではこの技能をその作業の一部に必要とされるのに対し、ホワイトカラーでは大半の作業にこの技能が必要となる。製品、製法、競合、市場、組織も変わるようななかでその問題を人がいかに上手にこなすかが産業社会競争力を大きく左右する。

技能習得に対し、ブルーカラーは長期に渡る実務経験、つまりキャリアが核心であった。「専門の中で幅広いキャリア」、これこそが知的熟練形成の根幹であった。そしてホワイトカラーには一層このことがあてはまるだろう。いまの日本企業において、ホワイトカラーの大卒がジェネラリストで幅広い部署を経験することでどうして真の技能、すなわち不確実性をこなす高い技能を習得できるだろうか。高度な専門性がより必要となってくるのである。

3. 中小企業の技能形成

大企業であればこれまで述べたような技能が大勢を占めるが、中小企業は次の3つのグループからなる。

1)大企業とかわらない高度な技能を持つ基幹層

2)経験10年ほどで技能が横ばいになる経験労働者

3)不熟練労働者

基幹層は職場内の主な持ち場を経験し、さらに関連の深い職場へと移動する。一見大企業より経験する職場の数が多い。ただしその仕事内容、部下の人数から大企業の職長に及ばない面もある。また取り扱う製品の多様さからも大企業より幅広いと言えない。職場の範囲が狭いのである。それにしても基幹層は大企業に匹敵する高い技能を持ち、賃金の上がり方も大企業と同程度である。違いは、この層の社内比率である。

中小企業の大多数は経験労働者である。一つの職場の中で持ち場を変わるが、キャリアはそこで止まる。賃金も10年以降横ばいになり始める。最初から基幹層と区別されていたのではなく、最初の数年間の働きぶりを見て経営者が基幹層をえり分けるのである。

ほかに賃金が最初から横ばいの不熟練労働者層がいる。大企業はこの層はあまり直接雇用していない。関連する中小企業に発注するか、請負制をとる。

調査によると、社長の右腕は子飼いではなく基幹層や経験労働者のような、他社経験をかさねても自社で10数年経験をつんできた人を選ぶことが重要である。

≪こんな人におすすめ≫

・経営者

≪併せて読みたい書籍≫

・経営の経済学




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